宇宙の見方

宇宙の始まりとは?

わたしたちの宇宙は、約137億年前に、急速に膨張する超高温・超密度の「火の玉」として生まれ、その後、膨張とともに温度・密度が下がり現在の姿になったと考えられています。これがビッグバン宇宙論です。ではその超高温・超密度の「火の玉」はどのようにして生まれたのでしょうか?また、宇宙はそもそもなぜ急速な膨張を始めたのでしょうか?それに対する最も有力な解答が宇宙初期のインフレーションです。

この宇宙のインフレーションとは、宇宙の膨張速度が加速する現象のことです。宇宙は最初、膨張も収縮もしていないふわふわとした状態で生まれ、それがこの加速膨張により大きな膨張速度を獲得したとするのです。あたかも、アクセルを踏み込んで、静止していた車を急発車・急加速させるような状況です。

これは実は奇妙な現象です。重力が引力とすると、宇宙を構成する物質は互いに引き合いますから、宇宙の膨張は必ず減速します。したがって、宇宙のインフレーションは重力が斥力となることを意味するからです。既知の物理法則では、この奇妙な現象を起こすことは不可能です。そのメカニズムとしては様々な提案が存在しますが、最も有力なものは、インフラトンと呼ばれる場のポテンシャルエネルギーが原因となっているとするものです。このポテンシャルエネルギーは常に負の圧力を生み出します。この負の圧力が斥力として働き、万有引力に打ち勝てばよいのです。


図1:インフレーション宇宙モデルの描く宇宙
出典:http://www-utap.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~sato/

インフレーションがしばらく続いたあと、このインフラトンのポテンシャルエネルギーは急速に通常の素粒子からなる高温・高密度のプラズマへと変化します。これがビッグバン宇宙の出発点となる火の玉に相当します。

このように、宇宙初期のインフレーションという考え方は、ビッグバン宇宙の起源を説明しますが、それだけではありません。実は、現在の宇宙に存在する天体やその分布の起源も説明するのです。インフレーションを引き起こすインフラトン場は、量子論に従うと、様々な波長のゆらぎを伴っています。インフレーション宇宙モデルでは、このミクロのゆらぎが急速な加速膨張で短時間に引き延ばされ、現在の銀河やその集団の種となったと考えます。この予言は、これらのゆらぎが生み出す宇宙マイクロ波背景放射の温度非等方性の観測により確認されています。

インフレーション時期での場の量子ゆらぎは、インフラトン場だけでなくすべての場に生じます。特に、時空の構造自体もゆらぎを伴い、そのゆらぎはインフレーションにより拡大されます。これは現在の宇宙では重力波として振る舞うため「原始重力波」と呼ばれています。インフレーション理論はこの原始重力波が特有のスペクトルを持つことを予言し、その実験による確認は、インフレーションの決定的証拠となると考えられています。この原始重力波を観測することがわたしたちのプロジェクトの大きな目標の一つです。

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