宇宙の始まりを見る方法
さて、ここで皆さんは「137億年間も昔のことをどのようにして見るのか?」と言う疑問を持たれるかもしれません。
日常生活の速度感覚からすると無限とも思える光の速度が実は有限(秒速約30万キロメートル)であることは皆さんもご存じだと思います。この光が1年間に進む距離が1光年(約10の13乗キロメートル)です。つまり、1光年先の宇宙を見ることは1年前に発せられた宇宙の情報を見ることであり、137億光年先の宇宙を見ることは、実は137億年前に発せられた宇宙の情報を見ることになります。例えば、現在地球で見えるアンドロメダ星雲は、230万光年の距離にあるので、実は230万年前のアンドロメダ星雲を見ていることになります。要するに、人類は現在にありながら、遠くの宇宙を見ることにより宇宙の過去を見ることができるのです。
では、もっとも過去の宇宙の姿を伝える光は、どこからやって来るものでしょうか。それが、宇宙マイクロ波背景放射なのです。宇宙マイクロ波背景放射は、生まれてから38万年後の宇宙全体に満ちていた光です。これよりも過去の宇宙では、温度が高すぎて、正の電荷を持った原子核と負の電荷を持った電子が激しく運動し、分離した状態でした。そのような状態では、光はこれらの荷電粒子と頻繁にぶつかり合っていたために、真っ直ぐに進むことができず、宇宙はいわば「曇り」の状態でした。それが、膨張と共に宇宙の温度が約3,000Kまで下がってくると、それまで激しかった原子核と電子の運動が弱まり、電磁気力により結合して原子という電気的に中性の状態になりました。これによって宇宙全体が電気的に中性化し、光は中性の原子とほとんどぶつかることなく真っ直ぐに進むことができるようになりました。これが「宇宙の晴れ上がり」と呼ばれています。この「宇宙の晴れ上がり」の時点で自由になった光が宇宙を満たし、それから137億年経った現在、宇宙マイクロ波背景放射として観測されています。
わたしたちのプロジェクトでは、137億年前の宇宙から発せられたこの宇宙マイクロ波背景放射を、最新鋭の観測装置を使ってさらに詳細に調べることにより、インフレーションの時代から最初の星が輝くまでの「宇宙の始まり」を、観測・実験と理論の両面から解明していく計画です。