研究内容

CMBチーム

わたしたちが現在存在している宇宙は、超高温・超高密度の火の玉状態から、約137億年かけて現在の大きさの宇宙に膨張したと考えられています。これがビッグバン宇宙論です。では、このビッグバンはどのようにして始まったのでしょうか。ビッグバンの前には何があったのでしょうか?それに答えるのがインフレーション理論です。インフレーション理論によると、宇宙はそのはじまりに、急激な加速膨張を起こしたとされています。それは、アメーバ程度の大きさが一瞬で銀河系の大きさになってしまうほどの激しさでした。この膨張速度は光速度を遙かに越えています。この急激な膨張の源は「真空」のエネルギーです。その「真空」エネルギーの「潜熱」がインフレーション膨張後に一気に開放されビッグバンの引き金になったのです。そのような急膨張の際には、原始重力波(インフレーション重力波)が生成されたと考えられています。

わたしたちは、このインフレーション重力波を観測し、インフレーションの証拠をとらえるために、超高感度CMB偏光測定実験QUIETを推進します。 QUIET実験では、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)を高精度で測定し、インフレーション重力波から発生する「Bモード」と呼ばれる特殊なCMB偏光パターンを見つけるのが目的です。その高精度の観測を成功させるためには、大気、特に水蒸気によるミリ波吸収の影響を最小限に抑えることが必要です。そのために、ほぼ一年中乾燥しており、大気・水蒸気の影響を最小限に抑えることのできる高度5,000mを超えるチリ・アタカマ高地においてQUIET実験を行います。


図1:チリ・アタカマ高地の遠景

図2:実験サイト。
アタカマ高地は地理的には
アルゼンチンやボリビアに近い場所


図3:観測中のQUIET望遠鏡

図4:QUIET実験装置概要


図5:QUIET実験で使用するCMB偏光測定器の断面写真(左)と模式図(右)

QUIET実験では、宇宙マイクロ波背景放射のうち40GHz帯と90GHz帯の周波数の電磁波を観測します。また、波長領域がQUIET実験とは相補的なPolarBeaR実験(90GHz帯、150GHz帯、220GHz帯)との共同観測、共同解析により、 インフレーション重力波の証拠となるBモード偏光を、世界最高感度(WMAPの10倍の感度)で探索します。


図6:PolarBeaR

さらに、どんなに高地であっても地上実験ではどうしても避けられない限界(固定された観測地と言う制限からする限定された視野、大気などによる系統誤差)を乗り越えるために、宇宙空間においてCMB偏光超精密測定を世界に先駆けて行うことを計画しています。その実現のために、検出器チームと連携しながらCMB衛星の概念設計と開発研究を推進して行きます。このCMB衛星が、今デザイン中のLite BIRDです。特に、CMB衛星用に開発した焦点面検出器をチリ・アタカマ高地にて試験運用し、その性能確認を行い改良を加えていく予定です。


図7:デザイン中のLiteBIRD

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