前景放射チーム
私たちのチームの名前になっている「前景放射」とは、宇宙に存在する全ての天体からのミリ波放射のことを言います。 全ての天体が宇宙マイクロ波背景放射の放射時期より手前に存在することからこのように呼ばれます。中でも銀河系の星間物質からの放射が宇宙マイクロ波背景放射観測にとって厄介な成分で、主な成分には、低い周波数に多いシンクロトロン放射と、高い周波数に多いダスト熱放射とがあります。
このプロジェクトの目的は原始重力波の観測により誕生直後のインフレーション膨張をしている宇宙を調べることです。その手段として、宇宙マイクロ波背景放射のBモード偏光の観測を目指しています。しかし、実際の観測データには、宇宙マイクロ波背景放射ばかりでなく、この前景放射も含まれています。そこで、この前景放射を可能な限り分離することが必要となります。
私たちは、将来の宇宙マイクロ波背景放射のBモード偏光観測衛星を使って、原始重力波の相対的な大きさを表すテンソル・スカラー比1で0.1%レベルまでの微小な重力波の検出を可能にする高精度の観測を目指します。 このような高精度の観測を実現させるには、ミリ波偏光データから宇宙マイクロ波背景放射と前景放射を分離する精度を、現在より10倍以上向上させる必要があります。
そこで、以下の方法でこの観測精度向上の実現を目指します。
- 日本が2006年に打ち上げた赤外線天文衛星「あかり」2の遠赤外線全天サーベイデータを用いて、銀河系内ダストからのミリ波全天放射強度分布モデルを飛躍的に向上させます。
- コンピュータによる数値磁気流体シミュレーションを用いて、太陽系近傍で発生する超新星爆発などの非定常的な現象によって生じている構造も再現できる現実的な銀河系磁場3次元構造モデルを、世界で最初に構築します。
- サブミリ波域で世界で初めて全天偏光観測を実施する人工衛星「Planck」プロジェクトとの共同研究により、ダストからの偏光波の発生モデルを構築します。
図1: Planck衛星
宇宙背景放射を観測するための高感度、高分解能の観測装置を備えた人工衛星で、ESAで2000年に3番目の中規模計画として計画された。
これらの結果から得られる情報を最大限に利用することにより、宇宙マイクロ波背景放射と前景放射の物理的特徴の違いに着目し、観測データから前景放射を取り除き、純粋な宇宙マイクロ波背景放射を取り出すことを可能にする新しい解析手法を構築します。
最後にチームのメンバーを紹介します。
左から 服部准教授、中村(M1) 高山(M2) |
森嶋准教授 | 左から 大坪准教授、安達(M2) |
ルオ(D3) |
1. スカラー・テンソル比:
原始重力波の振幅の2乗を、原始重力ポテンシャル(厳密には原始曲率揺らぎ)の2乗で割ったもの。重力の大きさに対する相対的な重力波の大きさを表す。小さなスカラー・テンソル比まで観測出来ると言うことは、それだけ微弱な重力波を観測できるということになる。
2. あかり:
日本の宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部(旧宇宙科学研究所)が中心となって開発し、2006年2月に打ち上げた赤外線天文衛星。日本初の本格的な赤外線天文衛星で、空全体にわたって星や銀河などすべての赤外線源を調べあげる「サーベイ観測」を目的としている。
図2:赤線天文衛星「あかり」 |
図3:赤線天文衛星 |
図4:「あかり」遠赤外線全天サーベイの波長 90 マイクロメートルで検出された、約 64,000 個の赤外線天体を天球上にプロットしたもの。 各点の色は、赤から白になるほど、その天体が明るいことを示す。横に明るく拡がっているのは天の川で、中央が銀河系中心の方向。星が現在活発に生まれていて、赤外線天体が密集している領域が明瞭に見えている。天の川から外れてまばらに散らばる天体のほとんどは、星生成が活発な遠方の銀河である。 |