研究内容

究極理論チーム


図1:究極理論探査チームのメンバーたち

私たちのチームは、宇宙誕生時のインフレーションから初代天体形成までの宇宙進化についての高精度観測実験、高エネルギー素粒子加速器実験、ダークマターの直接および間接探査実験で得られる観測情報を総合して、宇宙のインフレーションのメカニズムとその背後にある究極理論1を探査してゆきます。このために、高精度のCMB偏光観測および赤外線観測を目指す本新学術領域の実験チームと連携し、国内における宇宙論研究者の力を結集してこの理論研究にあたります。

図2:
最初のインフレーションモデルでは
フラクタル 宇宙が生み出される
出典:Kodama H, Sasaki M, Sato K, Prog.T
heor.Phys. 68(1982)1979

最初のインフレーション宇宙モデルは1981年に佐藤勝彦氏とアラン・グースにより独立に提案されました。このモデルは、当時、提案されて間もない、重力を除く自然界の基本相互作用の統一理論(大統一理論)に基づいたものでした。このモデルは、インフレーションの終了した領域が膨張する泡として次々と生まれることを予言しますが、それらがうまく宇宙全体を覆わないためビッグバン宇宙にうまく移行しないという困難がありました。



図3: 
新インフレーションモデル以降のモデルでは
宇宙誕生時にインフラトン場のそろった
ミクロの領域が急速に膨張し、
現在の観測領域より
大きなビッグバン宇宙になると考える。

この困難を解消したのが、1982年にアンドレイ・リンデが提案した新インフレーションモデルです。しかし、このモデルも大統一理論に含まれる場をインフラトンとして用いたため、その相互作用によりポテンシャルの勾配が急となり、十分なインフレーションが起こらないことが示されました。この結果は重大で、インフラトンの相互作用は重力相互作用と同程度の非常に弱いものであること、さらにその結果、インフレーションが宇宙の誕生と同時に起こることを意味します。このため、インフレーションモデルを基本法則から導くには重力を含む全自然法則の統一理論が必要であると考えられるようになりました。これは、同時にインフレーションの観測的研究により、このような自然界についての究極理論に関する情報が得られることを意味します。この考え方が、我々のプロジェクトの基礎となっています。


図4:
10次元KKLMMTインフレーション宇宙モデル

現在、重力を含む統一理論には2つのタイプの理論があります。一つは4次元超重力統一理論で、超対称性をもつ大統一理論と一般相対性理論を融合した理論です。この理論は、素粒子の標準理論の拡張として自然なもので、これに基づく宇宙モデルでは宇宙の物質組成や存在量などについて厳密で定量的な予言が可能です。しかし、この理論には整合的な量子論が存在せず、そのため究極理論とは見なされていません。もう一つは、超弦理論・M理論と呼ばれる理論です。これらの理論は、整合的な量子論をもつ統一理論ですが、10次元ないし11次元の理論であるという困った特徴があります。このため、この理論では現在の宇宙が4次元であることも説明が必要となりますが、まだ十分満足のゆく説明はできていません。このため、当面の課題は、インフレーションを含む宇宙および素粒子についての様々な観測のすべてと整合的な4次元超重力統一理論を探すことですが、我々の最終的な目標は、超弦理論・M理論からそのようにして得られた4次元理論を導くことができるかどうかを明らかにすることです。


図5:研究の流れ

1. 究極理論:
宇宙に存在する全ての素粒子と、それらの間に働く4つの相互作用(重力、電磁気力、強い力、弱い力)の全てを統一的に説明できる、最も根本的な物理理論。現在のところ、超弦理論やM理論がその候補であるが、実験的な証拠は見つかっていない。

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