研究概要
目的
本計画研究の属する学術領域は、宇宙背景放射によりインフレーション時期から初代天体形成時期までの宇宙進化を直接観測し、インフレーションの背後にある究極理論を探ろうとするものである。この目的を達成するためには、高精度のCMB偏光観測や赤外線観測により得られる観測データが宇宙の初期進化、さらにその背後にある究極理論についてどのような情報をもたらすかという理論研究を行うことが不可欠である。本計画研究の目的は、国内における宇宙論研究者の力を結集してこの理論研究を組織的に行い、最終的に同学術領域の実験関係計画研究と連携してすべての観測と整合的な統一宇宙モデルを構築し、それに基づいて背後にある究極理論候補を絞り込むことにある。
研究の進め方
本計画研究は、多方面にわたる高度の技術と知識を必要とする困難な課題を短期間で遂行することが必要となるため、それぞれ独自の専門知識と技術をもつ研究分担者(とそのグループ)が協力し、さらに公募研究を通して連携研究者を含む多様な研究者の協力を得ることにより研究を進める。
当該分野の研究の現状を考慮し、「インフレーション宇宙の生み出すゆらぎの組織的研究」と「重力を含む統一理論に基づくインフレーションモデルの構築」の2つのテーマを軸として研究を進める。
第1のテーマは、多様なモデルに対する観測量の組織的計算結果を観測と比較することにより、インフレーションモデルを絞り込むことを目指すものである。特に、現在進行中のQUIETとPolarBeaRを中心とする偏光Bモード地上観測から得られるインフレーションのエネルギースケールに対する制限に加えて、それと相補的なPlanck衛星観測から得られるゆらぎの統計性(非ガウス性)に関する情報を考慮することによりインフレーションモデルを現象論レベルで可能な限り制限する。さらに、将来のLiteBIRDやEPICなどの偏光Bモード衛星観測ならびに銀河やLynmanα雲を用いた重力場のゆらぎ観測にも備える。
第2のテーマに関しては、低エネルギー物理との接点が確立している4次元統一理論に基づく宇宙モデルの研究と究極理論候補の超弦理論・M理論からこれらの4次元理論を導く研究を並行して行う。これらのうち前者については、当面は超重力理論の枠組みで研究を進めるが、最高エネルギー加速器実験LHCの結果が出た時点で方向性を再検討する。一方、究極理論についての研究は現在の標準的な枠組みを超えることにより現実的4次元宇宙モデルを導く道を探ると同時に、時空ゆらぎ統計におけるパリティの破れなど、究極理論独自の特性をCMB・重力波観測により直接検証するための新たな観測情報の発見を目指す。